きっかけは下腹部への違和感だった。
1月末日、寒さが体を刺すような痛みに変わり始め、大学生である|藤宮龍之助《ふじみやたつのすけ》は布団に埋もれるように眠っていた。
寒い……寒すぎる……。
そう思ってスマホで天気予報を確認してみると、温度が-2°と表示されていた。そりゃ寒い訳だと龍之助は布団の中で体を丸める。
「今日は……このまま休んで眠ってしまおう……」
自分に言い聞かせるように声に出しながら、睡魔に誘われるように目を閉じる。
今日は大学で結構ギリギリな講義があるのだが……こんな寒さで外に出たら死んでしまう。単位目的で無理に外に出て凍死してしまったら意味がないから、これはしょうがない事なのだ。
ぶつくさと心の中で言い訳しながら、布団の暖かさにみるみる意識を奪われていく龍之助だったが、下腹部の違和感に気付いて手で触ってみた。
すると、眠気に反比例するように、逸物が勃起していた。
「ん……なんで?」
身体の異変に龍之助は下腹部を覗き込んだ。そこには大きく膨らんで、スウェットを破らんばかりに硬くなった剛直が見える。
普段の龍之介は、そこまで性欲が強い方ではない。小さな見た目も相まって性欲を見せない彼は周りから子供のように扱われてきてきた。
別にその事で嫌に思った事はないし、興味を感じた事も無かったから、自然と性とは無縁の生活をしていたのだが。
「痛っ!」
突然、陰嚢から激しい痛みを感じた。
張り詰めるような激痛に、傷でもあるのかと触って確認してみると陰嚢はとても熱く、水風船のようにパンパンに膨らんでいた。
勃起の方も、どんどんと血が集まり、その度にビクビクとズボンの中で大きく揺れる。
今まで一度も無かった下腹部の異変に、龍之助は次第に狼狽し始める。
痛い、痛い、とにかく痛い。
勃起した事自体は勿論何度かあるけど、痛みを感じる事なんて一度も無かった。
(もしかして、何か悪い雑菌でも入っちゃったのかな?)
性と無縁の生活をしていたといっても、性病の存在くらいは知っている。
張り裂けそうな痛みに、龍之助は何か悪い病気にかかったのではないかと考えた。
そう思ってしまうくらいに、尋常ではない痛みだったのだ。
(病気なら病院で見て貰わないといけないよね……でもどこの病院で見てもらえばいいんだろう?)
龍之助は健康優良児であり、病院のお世話になった事があまりなかった。しかも痛みを感じるのは男性器だ。全く未知の世界で、どうしていいのかわからず困惑する。
しかし、悩んでいても痛みは治まる事はない。
龍之助はスマホで調べようと思って、画面を覗くと同時に扉をノックする音が聞こえた。
「おーい、タツ。まだ寝てんのか?」
はきはきとしたよく通る声に呼ばれた龍之助。この声は次女の|亜花梨《あかり》のものだった。
(ま、まずい。今入られたら……っ!)
龍之助は慌てて布団から飛び出し、扉を抑えようとした。
亜花梨が龍之助を起こしに来るときは、決まってノックの後に勝手に部屋を開けてしまう。いつもは特に気にした事はなかったけど、今は別だ。
こんな状態を姉に見られるなんて、恥ずかしすぎて憤死ものだ。
ベッドから立ち上がり前に進もうとするが、動く度に剛直がスウェットに擦れてしまって龍之助は身を悶えさせる。
(なにこれ……き、気持ちいい……)
感覚が敏感になっているのか、逸物が少し刺激されるだけで腰がくすぐったくなる気持ち良さを感じる。
今まで全然経験した事のない快楽に、龍之助は身動きを取れずにいた。
そして、龍之助の健闘空しく扉が開けられる。
「おーい、入るぞー……。何やってんだ? タツ」
「お、おはよう。亜花梨姉ちゃん」
咄嗟に背中を向けた龍之助は、蹲るようにしながら挨拶を返す。
顔を横に向けながら、挨拶をした龍之助に視界に入ったのは案の定、亜花梨だった。
彼女も起きたばかりなのだろうか、Tシャツとショートパンツ姿のラフな格好をしていて、そこから陽に焼けた小麦色の肌が伸びている。
「どした? 腹でも痛いんか?」
「えっ、あっ……うん。ちょっと調子が悪くて。冷やしちゃったかな? あはは」
「あらら、どうせちゃんと布団被って無かったんだろ? ほら、見せてみ?」
亜花梨の手が肩に触れて、龍之助はびくりと躰を震わした。
そして、すぐさま振り払うように体を動かす。
「だ、大丈夫だから。気にしないで亜花梨姉ちゃん」
「……タツ。お前なんか隠してない?」
「へぇっ!? な、なんで??」
「いや……どう見ても挙動不審じゃん……何隠してんだ? まさか万引きとかしてないよな?」
亜花梨が龍之助の躰を掴むと、殻みたいに丸まった龍之助の身体を暴こうと力を入れる。
運動が大好きな彼女の力は凄まじく、龍之助も健闘しているが徐々に力負けしていく。
「してないっ、してないからっ! ちょ、ちょっと待って!」
「待たないっ! こんなに必死になって、何隠してるんだお前っ!」
「うう……」
(そんなの……言える訳ないってー! というか、身体が……)
抵抗するたびに亜花梨の体が密着してきて、筋肉質の体に乗ったぷにぷにとした乳房が龍之助の背中に押し付けられる。
感触からノーブラだとわかってしまった龍之助は、この状況がとてもいやらしく感じて、頭がおかしくなりそうだった。
「あっ!」
とうとう力負けした龍之助は、亜花梨に両手を掴まれて、身体を起こされてしまう。
「いっちょ前に抵抗して、タツみたいなひょろいのが亜花梨姉ちゃんに勝てる訳ないだろ。んでー? 何をかくし、て…………」
肩口から、覗き込むように龍之助の雄棒を見た亜花梨は、言葉を失ったように固まってしまう。
そのまま暫く見続けられて、とうとう我慢できなくなった龍之助は泣きそうな声を出す。
「ううう……だ、黙らないでよぉ」
「――え、あぁ。ごめん。悪かった! タツも男の子だもんな、そういう事もあるよな!」
龍之助の声で我に返ったかのように動き出した亜花梨は、掴んでいた手をパッと離した。
恥ずかしさの余り、目に涙を浮かべながら亜花梨の顔を覗いてみれば、頬を染めていた。
赤くなりたいのはこっちのほうだよ。全くもう……。
「うっ、痛っ!」
「え、タツ? どうした!?」
強張っていた身体を緩めたら、途端に陰嚢に激痛が走った。
さっきよりも酷い痛みに、立っている事も出来なくなった龍之助はその場に倒れ込む。
「う……うぅ……」
「ちょ、ちょっと待ってろ。ママ呼んでくるからっ!」
「え、ま……っ」
制止する龍之助の声も聞かず、亜花梨は「ママー!」と叫びながら助けを呼びに行ってしまった。
(こ……これ以上広め、ないで……)
激痛で薄れていく意識の中。龍之助は悶えながら、羞恥心と戦っていた。
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