もしも亜花梨に男性経験があれば……自分が魅力的だと思う気持ちが少しでもあれば、いつも快活な姉がここまで自信のない姿を見ることは叶わなかっただろう。
自分だけが知っている亜花梨のコンプレックスを垣間見ながら、龍之助は雄としての優越感を感じてしまっていた。
できればこのままずっと、自分だけが知る彼女でいて欲しいのだが、龍之助はそんな気持ちを振り払う様にかぶりを振った。
このままだと亜花梨は自信がないまま、いい巡り合いに恵まれないかも知れない。それではあまりに可哀想だ。
「亜花梨姉ちゃんが可愛いって証拠はあるよ」
そう言って、亜花梨の近くまで龍之助は近付いていく。
ズカズカと近寄る龍之助の態度に身構えながら、肌が触れ合うほど近くに寄った龍之助を亜花梨が見上げる。
「……何だよ、証拠って」
「それは……コレだよっ!」
そういって、龍之助は勢いよく自身の下着を脱ぎ降ろした。
封印を解かれた龍之助の剛直は猛々しく反り立ち、勢いよくヘソにぶつかる。
「……|龍《タツ》」
龍之助を見上げていた亜花梨は、突如眼前に放り出された逸物を見て、思わず呟いた。
「これが証拠だよ……亜花梨姉ちゃんが可愛すぎるせいで、どうしても昂奮しちゃって、収まりがつかないんだ……」
「あーしなんかに……昂奮して…………こんなに、大きく……」
うわごとのように亜花梨が言う。
視線は雄棒に焦点を合わしており、真っ赤な顔にうっすら汗をにじませながら、より目にさせて雄棒を見つめ続けていた。
(やばいよぉ……亜花梨姉ちゃんの表情も、この状況も……エロすぎる)
――実の姉に欲情して、あまつさえその象徴を本人に見せつけている。
あまりに背徳的といえる状況に、龍之助は自分でしていた時とは比べものにならないぐらいの性的興奮を覚えていた。だが、それをぶつけることはしない。あくまで見せるだけだ。
(この劣情を、亜花梨姉ちゃんに向ける訳にはいかない……)
龍之助にとって、これは亜花梨への自信を取り戻すためにしている行為だった。
無論、言うまでもなく龍之助の私欲も含まれている訳なのだが。
それでもこれ以上の関係はいけない。このまま劣情に身を任せてしまえば、亡き父親との約束を反故にすることになる。
『家族を大事にすること』
その約束を違えてしまうことになってしまうからだ。だからこのやり取りはここでおしまいにする。
亜花梨姉ちゃんも、自分相手にここまで欲情する人間がいるのだと知れたんだ。これをきっかけに女性としての自信を手に入れてくれることだろう。
(まぁ……そうなると、このギャップが見れなくなるのが寂しいところだけど……)
それでも、これで亜花梨姉ちゃんが余計な気をまわすこと無く自信をもって過ごすことが出来るなら、僕も本望だ。そう思った龍之助は、急いで部屋に戻り、この状況をオカズに一発抜こうとずり降ろした下着に手をかけた。
しかしその手を掴み、亜花梨は龍之助を制止する。
「亜花梨姉ちゃん?」
「ねぇ……今日ってさ……もうシたの?」
「え……シたって何を?」
「だからぁ……! タツって今ほら……アレじゃん……?」
「アレ……?? ごめん亜花梨姉ちゃん。何の話?」
「うう……ううう~~~~!」
全く要領を得ない会話に頭を捻っていると、亜花梨は丸まったまま身体を揺らし、悶絶しそうな呻き声を上げだした。
「ど、どうしたの亜花梨姉ちゃん……」
「ああもうっ! タツ! お前鈍感すぎっ!」
「えええ!?」
さっぱりわけがわからないまま怒鳴りつけられる龍之助。
鈍感って……一体何が…………。
「あ、もしかして。シたってオナニーのこと――」
「フンッ!」
バッチィンッッ!
「エンバラッシンッ!」
恐らく病気関連のことだろうと思った龍之助は、日常と化しつつある単語を言おうとすると、とんでもなくスナップの効いたビンタが飛んできた。
運動で鍛えた身体をフル活用して放たれた亜花梨のビンタは、龍之助の頬を的確に捉えた瞬間、景色が引き伸ばされたようになり――――龍之助はまるで時が止まったかのような錯覚に陥った。
「ゲフッ! い、いきなり何するのさっ!」
地面に叩きつけられた龍之助は、涙を浮かべながら抗議する。
しかし、龍之助の抗議など知ったことはないと言わんばかりに、亜花梨は倒れている龍之助の前で仁王立ちしていた。
「うるさいっ! せっかく人がボカして言ったのに、はっきりと口にするな! 恥ずかしいだろ!」
「だからって叩くことないじゃないか! 一瞬お父さんが見えた気がしたよ!」
「そんな強く叩いてないだろ、大げさなこと言いやがって! それでどうなんだよ! シたのか!? シてないのか!?」
「シてないよ! だったら何なの、さ……」
「あん……? 何見てんだタツ」
龍之助の視線に気付き、訝しい表情を浮かべながら亜花梨は身体を覗き込む。
すると、さっきと変わらず濡れたTシャツは亜花梨の裸体を透かしていた。
腕組みをして怒声を上げていた彼女の腕には控えめに胸が乗っかり、少し形を崩したおっぱいが、その柔らかさを主張しているようだった。
「……」
「……」
見る側と見られる側、互いに押し黙ってしまい、部屋には沈黙が訪れる。
ふと龍之助が亜花梨の顔を見てみると、彼女は恥ずかしさで耳まで赤らめ、今にもこぼれそうなほどの涙を溜め込んでいた。
それでも、弟を怒鳴りつけた手前、弱々しい態度を見せたくないのだろうか。彼女は微動だにせず、柔らかそうな胸を見せつける。
「あ、あの……亜花梨姉ちゃん?」
「タツ」
「は、はい!?」
名前を呼ばれて龍之助は姿勢を正す。理不尽に思うところはあるが、もう一度さっきのビンタを食らうのだけは嫌だった。
しかし、そんな龍之助の心配を余所に、彼女は少しの沈黙のあと、意を決したように口をひらく。
「――お風呂、一緒に入るよ」
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