2.15話

「あ~~。ようやっと終わった」

 PCに向けていた腕を伸ばしながら、体に残った悪い息を吐き出した。
 今しがた書き上げた書類をクラウドにアップロードして、反応が返ってくるまで待つ。これで今日の仕事は終わりだ。
 スマホを起動して時間を確認すると、待ち受け画面のデジタル文字は十一時五十分。もうすぐ正午になる所だった。

 自宅勤務は通勤の手間がないのが楽だが、平日と休日の境が曖昧になるのが悪い所だ。
 俺は凝り固まった肩をすくめるように動かしながら思った。
 いつもならそろそろ腹が鳴り始める頃だが、今日は早めに食べているので空腹感はない。昨日の内に彼女には、昼に来てもらう約束をしていたからだ。
 
 スマホの時計を再度確認すると十一時五十五分。
 まるで遠足前の子供のようにワクワクしているせいか、時間の流れが遅く感じる。
 なんだか初めて風俗に行くような、緊張と楽しみが交じった変な感じだった。
 しかも相手は引っ越してきたばかりの隣人で、未亡人と来たものだ。興奮しない方がおかしい。
 気を抜くと口角が上がってしまう表情をそのままに、俺は鼻歌を歌いながら机にスマホを立てかけた。

 台所に向かって水を一杯飲み、気を落ち着けると、外から静かに扉を閉める音が聞こえた。
 続いて鳴る足音。徐々にこちらに向かう足音が、まるで心音みたいだと思いながら、段々と大きくなる音に集中していた。

 ピーン・ポーン

 昨日も聞いた、一拍置いたチャイム音。
 すぐに扉を開けてしまいそうになったが、それではまるで、ずっと待っていたみたいに思われそうな気がして恥ずかしくなり手を止めた。
 一瞬、ほんの少しだけ間を置いてから扉を開ける。

「美穂さん。こんにちは」
「……こんにちは」

 扉の前に立っていた美穂さんは、昨日と同じような白い半袖のシャツとジーンズという健康的な服装だった。腰まである髪はポニーテールにして束ねられており、ラフな雰囲気が生活感を感じさせて余計にエロく見える。
 彼女のむちむちした体躯を包む衣服は、隙間なくぴっちりとくっついており、官能的なボディラインを下から舐めるように見てから最後に顔を覗く。

 彼女は俯きがちで表情は重かった。
 まぁ当たり前か、今からよく知りもしない男の相手をするのだから。
 美穂さんを部屋に招き入れて、顔ではなく胸に向かって話しかけた。

「結花ちゃんは大丈夫でしたか?」
「あの子は……いつも休日は昼過ぎまで寝ているので、今も眠っています」
「そうですか」
 そういえば昨日もすぐに眠っていたな。引っ越しで疲れているものと思っていたけど、ただ寝るのが好きなだけなのかも知れない。
 なんとなく考えていると、美穂さんが手で覆うように、さりげなく胸を隠した。どうやらずっと見られているのが気に入らなかったようだった。

 彼女の顔を見上げると、その瞳には昨日とは違う軽蔑するような冷たい物を感じる。
 まるで見下されているような感覚を覚えて少しだけ気分が悪くなったが、実際に言う事を聞くのは彼女なのだ、そう思うと憐憫の交じった瞳も興奮を煽る材料となった。

「……じゃあ、こっちでやりましょうか」
 彼女を寝室に招くと、彼女は少し立ち止まったあと、覚悟を決めたように付いてきた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「え……」
 彼女をベッドに座らせながら、俺は言う。
「結花ちゃんもいつ起きるかわかんないですから、サッと気持ちよくして、サッとイかしてくれたらそれで大丈夫ですよ」
「サッと……ですか……」

 彼女は見るからに安堵した表情をしていた。
 恐らく彼女は最後まで凌辱されるものと思っていたのだろう、しかし俺の態度から漂う、どこか緩い雰囲気を感じて気持ちが軽くなっている、そういう風に見て取れた。

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