2.16話

 いつか本屋で手に取った、心理学の本に載っていた『ドア・イン・ザ・フェイス』という心理誘導術がある。
 無理難題を言って断らせてから、その後要求を下げると、罪悪感で相手が要求を受け入れやすくなるという交渉術の一つだ。
 まだ口約束の段階である現状、土壇場でやはり無理だと逃げられたくなかった俺は、不意に思い出して調べ直した技術を試してみた。
 見るからに緊張が取れている彼女の表情から察するに、どうやら効果はあったようだった。
 勢いに乗った俺はこのまま彼女に畳みかけるように言葉を紡ぐ。

「そうです。僕はとにかく気持ちよくなれたら何でもいいので、最後までする必要はないんですよ」
「え」とあっけにとられた表情をする美穂さん。
「口や手だけでも、とにかくすっきり出来るなら僕はなんでもいいので」
 今日の所はね。会話に続けるように、心の中で呟いた。
「そ、そうなんですか……?」
「そうなんです」
「――わかり、ました」

 彼女は納得したように頷き、俺の前までやって来ると、屈みこんでからとっくにテントを張っていた股間に躊躇いながら手で触れる。
 おほ、まさか美穂さんの方から触ってくるとは……。

 ズボンの上から、彼女の指が膨れ上がった愚息を慰めるように往復する。
 覚束ない手つきのせいで、どうにも焦れったい感触が脳を興奮させていき、下腹部に血が集まっていくのを感じた。

「あの……気持ちいいんでしょうか?」
 手で俺のモノを弄りながら彼女が言う。
 自然と上目遣いになる美穂さんの顔が媚びているように見えて、征服欲が満たされていく。
「えぇ……、気持ちいいですよ。どんどんと硬くなってるでしょ?」
「……はい」
「美穂さん凄く可愛いから、さっきから興奮しっぱなしですよ」
「そんな……」

 思った事を正直に言うと、彼女は俯いて黙り込んでしまった。
しかし悪い気はしていないのだろう。触れるだけという感じだった手つきが、手の平全体で竿を掴み、扱き上げる動きは大きくなっていく。
 衣擦れだけが響く部屋の中で、本能的なものなのだろうか、美穂さんの口からは徐々に熱を帯びた吐息が漏れ始めていた。

「あ――」

 俺は暇を持て余している手を彼女の大きな双丘に向けて伸ばした。手が触れると彼女はビクリと体を震わせたが、跳ねのけるような事はせず、耐えるように目を閉じた。
 そのまま、ブラの隙間から彼女の胸を弄ぶ。
 下着から溢れるように膨らんでいる上乳を指で押し込めば、シャツの上からなのも構わず指が沈んでいった。引き抜くとぶるるんと弾む胸がなんだか面白くて、豊満な乳丘に何回も指を注挿する。

「ん……、はぁ……」
 相変わらず顔を背けたままだった美穂さんは息を荒げていた。
 いちいち被虐心を煽る立ち振る舞いに、手の動きはどんどんと大胆になってしまう。
 挿していた指を引き抜けば、手を広げてスイカのように膨らんだ乳房を潰すように揉み込んだ。

 しかし肝心の部分はブラでしっかりと守られており、上から触ったとしても固い感触があるだけで想像と違いなんとも物足りなかった。

「美穂さん、ブラ外してもらっていいですか?」
「え……」
「触るのに邪魔で、どうにも集中出来なくて。それに直接触れるほうが、興奮して早く終わると思うんですよね」
「……わかりました」

 彼女は渋々了承すると、逸物から手を離したと思えば、自分の服の中に手を入れた。
 何やらモゾモゾしていると思っていると、袖からブラの肩紐が飛び出した。その紐を縄抜けのように、ヒジ・手首と抜いていき、シャツを脱ぐことなくブラジャーを取り出してしまっていた。
 凄ぇ、手品みたいだ。

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