スマホの画面一杯に出てきたのは女性の顔。
脚にしがみつきながら、必死に性器を咥えている画像だった。そのせいで整った顔立ちはだらしなく崩れてしまい、淫靡な表情を見せている。
結花ちゃんは誰よりも知っているその顔が、ひょっとこみたいに口を伸ばしている姿を見て固まっている所だった。
液晶に映っている女性は美穂さん、つい数時間前に撮ったばかりの動画の一部分だった。
そういえば彼女が仕事に向かった後。きちんと撮れているのかを確認してから、そのまま液晶の電源を切ってしまっていたんだった。
俺は慌てて結花ちゃんからスマホを取り上げた。彼女の手には、全く力は入っておらず、空気を掴む彼女の手はゆっくりとベッドに落ちていく。
しくじった……! これはどうしようも出来ない。
つい最近知り合ったばかりの男のスマホから、母親のあられもない姿を個室で二人きりの時の状態でいきなり見せられたのだ。
大声で助けを求めるだろうか、逃げ出すように部屋を出て、通報されるのだろうか。どちらにしても助かる事は不可能に思えた。
両手に手錠を掛けられ搬送される姿が妙にリアルに想像できて、恐怖で背中に汗が伝うのを感じた。
どう考えても手遅れだが……俺はなんとかこの場を収める方法を必死に模索する。しかし無情にも、考える暇も与えられないまま結花ちゃんは口を開いた。
「あの――」
もう駄目だ。さようなら、俺の半生。
「今のってお母さん? ですよね。一体何をしていたんですか?」
――えぇ……。
結花ちゃんは、首を傾げながらこっちを見ている。
本当か? それは本当に言っているのか? それとも分かった上で聞いているのか?
「――今見た映像……何してるのかわからなかった?」
「え、はい……」
馬鹿にされたと思ったのか、訝しい表情を浮かべながら彼女は答えた。
結花ちゃんの態度から、本当にわかっていないように見えた。
なんて事だ。
性知識が乏しい感じはしていたけどここまでとは――窮地から一転、なんとかなりそうな空気が漂ってきて、俺は安堵から大きく息を吐きだした。
おかえり、俺の半生。
というか、寧ろこの状況は千載一遇のチャンスだ。
まずは軽いジャブから、緊張で声が裏返りそうになりながら、俺は結花ちゃんに質問をした。
「――――結花、ちゃん、マスターベーションって、知ってる?」
「へ? 昔授業で聞いた事があるような……ないような」
「じゃあ女性と男性ではここの形が違うのは?」
そういって俺は自分の股間を指さした。すると彼女は少し恥ずかしそうにしながら、
「し、知ってますよ。立ってぉ……出来るんですよね」
と、答えた。
「そうだね、でも、別の使い方があるのは、知ってるかな?」
心臓が跳ねるのを感じる、ここで引かれたら終わりだ。
「――そうなんですか?」と聞いてくる彼女の反応を見て、俺は確信を持てた。
恥ずかしさはあるようだけど、結花ちゃんの性知識は小学生、しかも低学年のレベルだ。
――いける。
昂る感情を抑えながら慎重に言葉を選ぶ。すると、閃光が走ったように、引っ越し当日の出来事が脳裏によぎった。
「――結花ちゃん。引っ越して来た日、一人になった時に股間触ってたでしょ」
彼女の顔から見る間に血の気が引いていくのが見て取れた。
予想外の質問に、表情を強く強張らせる結花ちゃん。
コメント