星の雨

「あら、まだ起きていたのね」
 ベットで仰向けになり、天窓から満天の星を見ている僕に母は言った。
「うん、星が降るのを待ってるんだ」
 天窓から視線を外さず僕は言う。
 母にお休みなさいと挨拶をしてからベットに潜り込んだ後、空を見ていると直感的に星が落ちてくる気配がした。好奇心が疼きその光景をどうしてもみたいと思ってしまった僕は、ワクワクで眠ることが出来ずに唯々空を眺めていた。そしたら母親が様子を確認しにきて今に至る。
 母は僕が何を言っているのかさっぱりわからないといった表情をしており、わざとらしく首を傾げ「どういう事?」と悩んでいたので、僕は母の為に懇切丁寧に説明をしてあげた。
「あのね、今は星たちが輝いているけどもうすぐ雲が一面を覆ってしまうんだ。そうしたら星達は雲を突き抜け、地面に落ちてくるんだよ」
「ふーん、私にはよくわからないわ」
 僕の説明を聞いた母はズバっと一言で切り捨てた。
 折角順を追って説明をしてあげたのに、母の頭の上のハテナマークは更に大きくなってしまったようだ。
「よくわからないけどもう深夜よ。そろそろ寝なさいね」
 母は肩からずれ落ちたストールを羽織りなおすとそう言った。
「もう少しだけ」
 口から吐き出された息が白くなり、ゆらゆらと部屋を待って消えていく。その様を見た僕はもう少しで星が降ってくる予感を感じた。
 
――あれから少し経ち、外では酔っ払いのフクロウ達がホウホウと鳴いている。
 僕が眠りにつくのを見届けようとしている母は、大きなあくびを出しながら部屋の椅子に座り込み、うつらうつらと船を漕いでいる。
「あ」
 その瞬間をずっと待っていた僕は思わず声を上げた。
 輝いていた星達はひとつ、またひとつと消えていき、あっという間に夜空は暗い雲に覆われた。
「ん~~、どうしたの?」
「もうすぐっ、もうすぐで星が降るよ」
 半分夢見心地の母に伝えると、重くなった目蓋を手で擦りながら天窓を覗き込む。
「星なんて見えないじゃない」
「雲の中にいるんだよ、さっき説明したでしょ」
「そうだったかしら? よくわからないわ」
「もう……!」
 同じ返答ばかりする母親に苛立ちを覚えた頃、天窓から音がした。
 ポッ  ポッ
 遠慮がちに天窓をノックする音はあっという間に増えていき、ザーと一つの大きな音に代わっていく。
「ほら見て、星が降ってきたよ」
 僕はベットから飛び起き、部屋の窓から外を指さす。
 視界の先には地面に当たって砕けた星の破片が路面一面に広がっていた。
 光に照らされキラキラと輝く破片は水になり、辺りを濡らしていく。
 その光景に見惚れていると、酔っ払いのフクロウ達が逃げていくのが見えた。
 フクロウの慌てた表情を見た母親は僕の横で「あらあら」と微笑んでいる。なんだか僕も可笑しくなって一緒にクスクスと笑った後、星が降り続けるのを暫く眺めていた。

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