吸血鬼狩りと弟子(4/4)

「これが……師匠の……」

 想像をはるかに超える巨大な怒張に一瞬気押されたアンリエッタだったが、むわぁっと香ってきた雄臭に脳を犯されるような感覚を覚えた。

 そして……恐る恐る鈴口に唇を添わせる。

「えろぉ……ぺろぺろ……んちゅ……でか、ちゅるる……こ、こんなの咥えきれないよ……ちゅ、ちゅば……」

 暴力的な大きさの剛直を両手で抑え、アンリエッタは必死になって奉仕をする。話で聞いた事しかない口淫はぎこちなく、慣れている人間にはとても満足できるものではなかったが、彼女が舌を動かすたびに、ヒューゲルの逸物は快楽に震え、抑えつけるのに苦労した。

(確か先を舐めた後は……こう、裏筋を……)

 亀頭冠押し付けた舌を離さないまま、逸物の裏側に向かって舌を動かす。すると、怒張が一際大きく動き、アンリエッタの鼻先を叩く。

「きゃっ……っ。い、今のって気持ち良かったってことかな。それなら、ここを集中的に舐めてみれば……」

 ものは試しとアンリエッタは裏筋を集中的に捉えた。吸血鬼の頭部に銃弾を幾度も打ち込んだよう、執拗に、徹底的に。

「ちゅば、ちゅるる……師匠、気持ちいい? んは……ちゅ、れろれろ……ちゅるるるる」

 アンリエッタの言葉に反応するようにヒューゲルの逸物はビクビクと戦慄く。その反応を見ながら、アンリエッタは彼の気持ちいいと感じるところを観察し、快楽を与える奉仕は的確になっていく。

「んぐ……ぐぅぅ……」

「はぁはぁ、師匠……ごめんね、師匠……」

 呻き声を上げるヒューゲルにアンリエッタは心の底から謝った。自分の不手際で彼を苦しめてしまっていること、そしてその状況を利用して自分の性的好奇心を満たしていることに。

(いけないことだっていうのはわかっている……でも、止まらない。この臭いが、鉄のような硬さが、むせ返る汗の味が、いくらでも舐めていられるぐらい夢中になってしまうの)

 瞳を虚ろにしながらアンリエッタは想い人の剛直にむしゃぶりつく。心の中で思ったのはまさしく本心であるかのように一心にペニスを頬張る。

 怒張は動きを小刻みにしていき、更に大きく膨張を始める。それに合わせてヒューゲルの呻き声も頻度を増していった。

「師匠、もしかして出そうなの……? いいよ、わたしに任せて。身体に溜まった悪い毒素。全部外に追い出して」

 直感的に射精が近いことを感じたアンリエッタは舌の動きを速めた。怒張は膨張するだけでなく、硬度も増して血管が膨らんでいく。

「ぐ……ううう……」

「んじゅ、ちゅぱ……師匠、好き。大好き……これからも貴方と一緒にいたい。対等な立場になって貴方の横にいたい。だからお願い、死なないで。眷属になんてならないで」

 アンリエッタは請う様に性器にすがる。今まで一度たりとも本人に口にしたことなどない。素直な気持ちだった。

「ぐあああっ!」

 ビュルル! ビュルルルルルル!

「んひゃああっ」

 ヒューゲルの鈴口から白濁液が発射される。量もさることながら、あまりにも濃い種子は白ではなく淡いベージュ色をしていた。火傷しそうなほど熱い体液が何度も噴出し、アンリエッタの顔面を汚していく。

「はああああ……」

 種子から放たれる、一際濃い匂いにアンリエッタは吐息をこぼす。嫌になるほどきつい雄臭に、頭がおかしくなりそうだった。

 びゅくびゅくと種子の残りを吐き出す怒張を撫でながら、アンリエッタは言う。

「師匠、いっぱい我慢してたんだね……気持ち良くできて……よかった……」

 我が子を愛でるように、小さくなっていく逸物を撫でたアンリエッタは急激に眠気に襲われ始めた。だが考えてみれば無理もない。初めて行った一人での実戦、更には師であるヒューゲルの負傷、薬を落とす失態と心労が続いたのだ。アンリエッタの体力はもう限界に来ていた。しかしこのまま眠るわけにはいかない。

「ちゃんと片付けないと……」

 このまま眠りに落ちてしまい、ヒューゲルが先に起きてしまえば大惨事だ。アンリエッタは既に温くなっていた布で白濁液を拭き取り、ヒューゲルの下腹部を綺麗にしてズボンを履かせた。

「これで大丈夫……後は……待つしか……な、い……」

 言いながら、ヒューゲルにしなだれかかるようにアンリエッタは眠りに落ちた。

 アンリエッタが目を覚ますと、寝室には既に陽光が入り込んでいて鳥たちが鳴いていた。

 自分が眠りに落ちていたことに気付いたアンリエッタは身体を起こし、ヒューゲルのほうを見る。

「よう。やっと起きたか」

 ヒューゲルは既に起床していて、寝癖で跳ねたアンリエッタの髪の毛を手ぐしで整えた。

「し、師匠ぉ……」

 見るからに状態が良くなっているヒューゲルにアンリエッタは思わず涙が溢れてしまう。

「お前が処置してくれたのか、迷惑をかけたな」

 肩口に巻かれた包帯を見てヒョードルが優しく笑みを浮かべる。顔からは汗が引き、意識もしっかりしているように見える。どうやら完全に峠は越えたようだった。だが、一つ問題が残っていた。

「師匠、痣がっ。眷属化の兆候がまだ残ってる」

 肩口から心臓に向かう黒いシミは未だ消えてなかった。やはり、口移し程度では薬の効力がなかったのか。

 アンリエッタが慌てていると、「はぁ?」と間の抜けた返事をヒューゲルが返す。

「だって、黒いシミが……眷属化の兆候が……」

「黒いシミってこれのことか?」

 アンリエッタが指さした箇所をヒューゲルはベットのシーツで拭う。すると面白いくらい簡単に黒いシミは消え去った。

「こりゃあただの血だよ。出血していた肩口と違って跳ねた血液はすぐに酸化したんだろ。それに眷属化はすぐさま兆候が表れる。もし俺が眷属になっていたならここに戻るまでにそうなっていただろうさ」

「え、えぇ……」

「というか、これぐらい簡単に落ちる汚れを勘違いするなんて、お前は本当に詰めが甘い奴だな」

 がははと威勢のいい笑い声を響かせながら、ヒョードルはぐしぐしとアンリエッタの頭を撫でた。

(すべて、勘違い、わたしの……?)

 昨日の出来事を思い返し、アンリエッタは恥ずかしくて自分の墓穴を掘って埋没してしまいたい気持ちになった。

「どうした、黙りこくって。さては勘違いしたのが恥ずかしすぎて墓穴でも掘りたくなったか? 部屋の状況を見るに相当慌てたみたいだしな」

 ヒョードルが部屋を見渡すと、割れたガラス瓶に散乱した治療器具、十分に絞られていないベチョベチョのタオルが散乱していた。冷静になったアンリエッタは部屋の惨状を見て目を丸くした。

「こ、これはその……師匠が死ぬかもしれないと思ったから必死になって……」

「まぁな。実際かなりの出血量だったし、処置が遅れてたらやばかったかも知れない。だがこんな稼業だ、明日また陽の光を見れるとは限らない。それは最初に教えたことだろう」

「そうだけど……でも、でもわたしは師匠に死んでほしくない。絶対に死んでほしくなかったの!」

「なぜ? まだ一人前の証をもらっていないからか?」

「……それは」

 問い詰められ、アンリエッタは言葉に詰まった。

 心臓がバクバクと脈動するのを感じる。緊張で上手く呼吸が出来ない。でも、言うなら今しかないと強く思った。

 ヒューゲルの言う通り、当たり前に来ると思っていた明日は忽然となくなるかも知れない。それは昨日、痛いほど痛感した。だからこそ言うなら今しかないのだ。

 アンリエッタは渾身の勇気を振り絞り、ヒョードルに向き直った。

「だって、だってわたしは……師匠の、あなたのことが――っ!」

<END>

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