なかよし家族
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1,謎の奇病に掛かってしまった(7)

「龍之助の射精を手伝って欲しい?」
「そうです」

 龍之助が処置室にいる間、優菜は医者から病気に対する説明を受けていた。
 多少個人差はあるようだが、龍之助の患った奇病は頻繁に射精しないといけないらしく、溜め込んでしまうとまた今日みたいに激痛を感じたのち、睾丸が爆発してしまうと改めて説明を聞かされていた。

「しかし、一人で処理するにしても限界があります。この病気の厄介な所なのですが、射精を促す為に性欲を刺激するといっても、性欲そのものを増大させる訳ではないのです」

 医者の説明を今一つ理解できない優菜は首を傾げる。

「えっと……つまりどういう事なのでしょうか?」
「簡単にいうと、一人で処理していても、いずれ飽きが来て射精出来なくなる可能性があるという事です。そうなった場合、龍之助君が恥ずかしがる等してその事実を隠してしまった場合、彼の命が危なくなります」
「そ、そんな!?」

 医者の発言に、優菜の血の気は引いていき。その場で倒れてしまいそうになった。
 しかし、ぎりぎりの所で踏ん張り、龍之助の笑顔を思い出す。
 優菜にとって龍之助は目に入れても痛くないほど可愛い息子だ。そんな大事な子供が一人で悩みを抱え込んだまま爆発してしまうだなんて……そんな事、優菜には到底容認できる事ではなかった。

「……私達が手伝えば、龍之助の射精を促せるのでしょうか」
「正直な所、わかりません。わかりませんが……本来闘病とは孤独なものです。そこに家族の支えがあれば、龍之助君も勇気を持って立ち向かえるのではないでしょうか」

 医者の言葉に、押し黙る優菜。

「…………」
「頑張ろうよ、ママ」
「亜花梨……」

 重い沈黙を押し破るように、亜花梨が口を開いた。
 その表情はとても真剣で、切実に龍之助の安否を気遣っている。決意に満ちた表情だった。

「大切な弟が一人で苦しんでいるなんて、そんなのあーし耐えられないよ。出来る事ならなんだってしてあげたい。ママだってそう思ってるんでしょう?」
「……そう、そうよね。亜花梨ちゃんの言う通りだわ」

 亜花梨の力説に、優菜は大きく頷いた。
 私は何を迷っていたのだろうか。大事な子供が苦しんでいるのだ、それを助ける方法があるのに一体何を躊躇する必要があるのだろうか。
もし龍之助が事故にでも遭うのならば、私は喜んで身代わりになるだろう。もし龍之助に臓器提供が必要なほどの重大な病気にかかったのなら、私は心臓でも差し出すだろう。

 龍之助の為にすべてを懸ける覚悟がある。なればこそ、必要ならば自分の身体を使って龍之助の射精を手伝うのもまた、体を張る行為だと思う。でないと息子は爆発して最悪死ぬかも知れないのだ。臓器を提供する事と、身体を提供する事、ここになんの違いがあるというのだ。 

(くだらない倫理観で、本質を見誤る所だったわ……)

 優菜は顔を上げて、医者の方を振り向いた。
 その表情は真剣そのもので、これからの闘病生活を戦い抜くという強い決意に満ちている。

「先生……私達、龍之助の射精を手伝います!」
「……そうですか。よく決断してくれましたね」

 医者はにこりと微笑むと、看護師の一人を呼びつけて指示をした。
 少しだけ時間を置いて、帰ってきた看護師から医者は何かを受け取ると、こちらに向き直す。

「これを処方しておきます」
「これは……?」
「避妊薬です。有り体にいうとアフターピルという奴ですね。これを服用していれば膣内射精をされたとしても妊娠の危険性は殆ど無くなるので、万一膣内に射精した場合は72時間以内に服用してください」
「わかりました……」
「それでは今後の対応なんですが――――」

 医者の話を聞きながら、優菜は見本に渡された避妊薬を握りしめた。
 愛する夫が残した可愛い息子、小さくて可愛くて……本人は強く立派な男らしい性格に憧れているんだけど、ちょっと何かあるとすぐ泣いてしまういじらしい愛息子。

 夫の真似をしてドカリと椅子に座り込む練習を密かに続ける可愛い可愛い我が子。可愛くて可愛くて……可愛すぎて考えるだけで生まれてきて良かったと思わせてくれる可愛い可愛い我が子可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い。あんなに可愛いタツ君のオチンチンを触っていいなんて凄い、可愛い可愛い早く早くタツ君のドラゴンチンチンはやく触りたいヨシヨシって一杯頭を撫でながらシコシコってしてあげたいジュポジュポ舐めて気持ちよさそうにしているタツ君のアヘ顔を見たい見たい可愛い見たい。

「――と、いう訳でして。なにせ珍しい症例なのでこちらとしても、今後の患者に備えて……あの、聞いてますか?」
「…………」
「ママ? ママっ、ちょっとママ! 大丈夫!?」
「はえっ!? あ……」
「……大丈夫ですか? 藤宮さん」

 心配そうな表情で、医者がこちらの顔を覗いてくる。

「え、えぇ……すいません。少し考え事をしていまして」
「そうですか……心中お察しします」
「無理ないよね……タツがこんな訳のわからない病気にかかっちゃったんだから……」
「あ……ううん、大丈夫よ。亜花梨ちゃん……。先生も、ありがとうございます」

 優菜は平静を装いながら、ぺこりと軽く会釈をした。
 あ、危なかったわ……つい妄想に耽って黙り込んじゃった。
 だってまさか、あんなに可愛い、実の息子とエッチが出来るなんて……無垢な笑顔をオカズに自分を慰める事しか許されないと思っていたら、こんなチャンスが巡って来るんだもの……こんな、こんなの……。

 想像するだけで下腹部が熱くなり、湿り気を帯びる。
 頭が沸騰しそうに熱くなるのを感じる。今すぐ秘所を触って慰めたかったがグッと堪えて姿勢を正した。

「申し訳ありません、もう大丈夫です。先生、もう一度お話頂いて構いませんか?」

 そこにはキリリとした表情をする、保護者の姿があった。

「それでは、もう一度初めから……この性機能障害における家族間での性交渉については、医療行為として国が認めるものとしています。ですが事情を知らない人が見てしまうと混乱する事が予想出来ます。なので症状が治まるまでの間、患者は外に出かけないようにしてください。外で何かしら起きた場合、対処できませんので」
「わかりました」
「あと、症例を記録しておきたいので定期的に経過報告をしに通院してきてください。別に患者本人でなくとも大丈夫なので」
「経過報告……ですか」
「ええ。さきほども話しましたが、何分珍しい症状なので……今後の患者に備えて出来るだけカルテを埋めておきたいのです。協力お願い出来ませんか?」
「はい、大丈夫です」
「そうですか、いや助かります」

 そう言って、医者は満面の笑みを浮かべた。

「困った時はお互い様ですから。こちらこそ、龍之助の事。どうか宜しくお願いします」

 言いながら、優菜は深くお辞儀をした。

「ええ、一緒に頑張りましょう」

 頼りがいのある先生の声を聞いて、優菜は「はい」と言ってから、薄く笑顔を作る。
 龍之助……私頑張るからね……。い~~ぱいあなたの事を気持ち良くして、あなたの事を守って見せるから!
 だから、負けないで……!

 助けたいという気持ちと優菜自身の私欲が入り交じりながら、優菜は処置室のドアがあるほうに視線を向ける。
 その部屋の先にいる龍之助は不安で泣いているのだろうか、それとも痛さに苦しんでいるのだろうか……。
 もどかしい気持ちを抱えながら、優菜は一心に龍之助の事を考えていた。

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