「うう……中々出ない……」
病院で診断されてから4日が過ぎた頃。
龍之助は暇を見つけては一人で自慰に耽っていた。
最初の内は茜とのエッチをオカズに順調に射精していた彼だったが、何せ必要な射精回数が多すぎた。
(最低5回は出さないと、どうしても陰嚢が痛くなってくるんだよなぁ)
それでもなんとかノルマをこなしていたが、4日目になってから体に異変が起き始めた。逸物は反応する。我慢汁だって出てきている、しかし肝心の射精までに繋がらない。
どれだけ扱き上げても、硬くなるだけで射精までは結び付かないのだ。
「よっ……ほっ……ほあぁ……!」
不思議な奇声を上げながら、愚息を力一杯擦り付けるが、やはり射精する事が出来ない。龍之助は手を止めて、どうしたものかと困り果てていた。
(茜さんがいれば、なんとかなったんだけどなぁ)
万一の時は再び茜さんにお願いしようと、病院に電話をしたところ、彼女はあの日以来出勤してきていないらしい。どういう事かと聞いてみると、龍之助のプレイが激しすぎて体調を崩し、過労で休みを取っているとの事だった。
暫くのあいだは休んでいるだろうといわれ、それなら他の人でもと思ったのだが、病院側からしても処置する度に職員に休まれるのは困るらしく、丁重に断られてしまった。
そういう経緯もあり、龍之助は焦っていた。このままだとまたしても、あの痛みがやってくる。そして、その焦りこそが龍之助が射精に至らない原因の一つでもあった。
誰でも緊張やストレスを感じてしまえば、勃つものも立たなくなる。そんな状況でも龍之助の雄棒は見事にそそり立っている訳だが……流石に射精まで持っていく事は出来なかったのだ。
「はぁ……一旦休憩するか」
ずっと一人遊びに興じていたからか喉が渇いて来た。
素っ裸で自慰に耽っていた龍之助は下着だけを履いてから、飲み物でも探そうと部屋を出てダイニングに向かう。
「あ……亜花梨姉ちゃん」
「タツ……」
部屋の扉を開けると、部屋の中には亜花梨がいた。
手にはグラスを持っていて、グラスの中には牛乳が入っている。彼女も飲み物を取りに来たのだろう。
「よ……よう。どうしたんだタツ?」
「ちょっと喉が渇いたから、飲み物を取りに……」
「ふーん……そっか」
「うん……」
会話はそこで止まってしまい、何とも言えないきまずい沈黙が流れる。
「……あ、お母さんは?」
「もう仕事にいったぞ」
「あ、そっか」
「…………」
(うう、居心地が悪いなぁ……)
龍之助が病院に運び込まれた日から、亜花梨の様子は明らかにおかしくなってしまっていた。
龍之助と目が合えば、あからさまに目をそらしてきて。今みたいに話しかけてみても相槌を返すばかりなのである。
普段の亜花梨と言えば、用事もないのに部屋にやってきては、あれで遊ぼう、これで遊ぼうと、気さくに声をかけてくれる親しみやすい姉なのだが、今は露骨に避けられている感じがする。
激痛に襲われた時だって、頼んでもいないのに亜花梨が起こしに来てくれたからこそ、こうしていつも通りに過ごしていれるのだ。
感謝しても感謝したりない、龍之助にとっては命の恩人とも言える大事な人物なのだが……そんな人物から、こうわかりやすく一歩置かれた態度をとられてしまうと。なんともいえない、悲しい気持ちになってしまう。
(やっぱり、こんな弟なんて……見るのも嫌なんだろうな)
今の龍之助は、定期的に射精をしないといけない身体だ。
亜花梨から見れば、例え本意ではなかったとしても、家のどこかで毎日子種をまき散らしている男がいるのだから、姉である前に女として、龍之助に嫌悪感を覚えているのだろうと龍之助は思った。
だからこういう態度をとられることも納得は出来ている。それでも、理解できるからといって納得が出来る訳ではない。龍之助は悲しい気持ちに項垂れながら、冷蔵庫に向かおうと歩を進めると、
ドン――。
「わっ」
「うわっ」
不意にやってきた肩への衝撃。
それから間をあけずに、ドスン……と、亜花梨が尻もちをつく音が部屋中に響き渡った。
「いった~~」
「ご、ごめんっ! 亜花梨姉ちゃん。僕下向いてたから……」
「ん? あぁ、気にすんなタツ。全然平気だから」
「で……でも」
龍之助は声を上擦らせ、慌てた様子を見せる。
ただでさえ怪訝の視線を向けられる日々に疲れているのに、こんな失態までやらかしてしまったら、本当に嫌われてしまうと思ったからだ。
酷く狼狽した様子で亜花梨を覗きながら、龍之助は立ちすくんでいた。
「……たくっ、ほ~ら」
「えっ……」
自身の弟の心境を知ってか知らずか、亜花梨は心配そうにしている龍之助を一目見てから、おもむろに右手を持ち上げ龍之助に差し出した。
「手、貸してくれよ」
「……うんっ!」
差し出された手を引っ張りながら、亜花梨を起こす龍之助。
そこには少しだけだけど、いつもと変わらない雰囲気をまとった、良く知る姉の姿があった。
「さんきゅー、タツ……って、ありゃりゃ。びしゃびしゃだなこりゃ」
「あ、さっきの牛乳……」
彼女が牛乳の入ったグラスを持っていたことを思い出した龍之助は、亜花梨の身体に目を通す。
薄手のTシャツに肌に食い込むほどのぴっちりとしたスパッツには、牛乳がまんべんなくかかってしまったようで、張り付いた衣服が小麦の肌を透かしていた。
顔を拭いながら姉の、なんともいえない淫靡な格好に、龍之助は透けて見える上半身を凝視してしまっていた。
それもそのはず……濡れたシャツから見えるのは小麦色の肌だけではなく……肌とは対照的な、とても綺麗なピンクの突起が二つも立っていたのだから。
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