4,大人しい長女と大人な経験をしてしまった。(1)

 喉が渇いていた。

 自室でPCモニターを眺めながら、静江はとても億劫な気持ちで倦怠感と戦っていた。
 動きたくない。
 外に出たくない
 それでも喉は潤したい。
 しかし待っていても飲み物は自分からやってはこない。

「はぁ……しょうがない……飲み物取りにいこう」

 面倒そうに椅子から立ち上がりながら、静江は部屋を出てキッチンに向かった。
 物音を出さずに階段を降りてから、部屋の扉を開けようとすると、中から声が聞こえてきた。

(ん……中に誰かいる?)

 いまいち会話の内容は聞き取れないが、テレビの音にしてはとても生々しい肉声の会話。
 人見知りの強い静江は、万が一知らない人がいたら嫌だなと思って、少しだけ扉を開けて隙間から室内の様子を確認した。

(え…………)

 そこには見知った人物。自身の弟と母親がいた。来客ではなくホッとした反面、今は到底、部屋の中に入れる状況ではなかった。
 なぜなら血の繋がった二人の肉親が――おしべとめしべを合わせ合い、一つになっていたのだから。
 想像しようもない不思議な光景に、静江は目を白黒させながら二人の情事を覗いていた。

(たっ君……あんなに気持ちよさそうな顔してる……)

 静江の視線は、龍之助を捉えている。母親に腰を打ち付けながら恍惚の表情を見せる私の弟……。
 性とはかけ慣れている容姿をしている彼が、自身の母親に手を掛けている姿に、静江はいいようのない昂奮を覚えていた。

「――はぁ……はぁ……んっ」

 気が付けば静江は、自分の下腹部に手を忍ばせて、秘所に向かわせていた。
 目の前で繰り広げられている背徳的な官能が、私の劣情をおかしくさせている。見ているだけで下半身が疼いてしまって仕方がなかったのだ。
 静江は下着の中に手を入れると、自身の大事な部分を舐るように弄りだす。

「あう……うう、くぅっ……んっ……」

 触る前から十分に濡れていた秘所は、優しく指を受けいれる。
 ちゅくちゅくと、控えめな水音を鳴らしながら私は肉親のセックスをオカズに自慰に集中していた。

 龍之助にひとたび突かれると、母親である優菜は女の顔で喘いで見せる。その様相から察するに、龍之助のチンコはきっと、相当に気持ちがいいに違いない。
 静江は優菜に視線を移せば、彼女になったつもりで想像上の龍之助を味わう。

(そんな気持ちのいいモノがここに入れば……どんな快楽が私を襲うんだろう)

 興が乗ってきた静江は撫でるように触っていた指を二本、膣内に滑り込ませる。龍之助に見立てた指を前後に動かしながら、静江は快楽に震えて脚を震わせた。

「あっ、あっ、あっ、はぅ……ううう……」

 静江の指がどんどん加速していく。感情が昂ってきた彼女は、自分が隠れて覗いていることも忘れてしまいそうなほど、自慰に没頭していた。

「ああううう……イク…………イクイクイク……!」

 恥部から伝わる愉悦の波が、脳に向かって登ってくる。頭の中がチカチカとしてきて、まるで火花が散っているようだ。
 もうすぐ絶頂を迎える……静江はすぐにやってくるであろう法悦に身を強張らせた。が、

「あれ? 姉貴じゃん。部屋から出てんの珍しいね」
「え……ふえ……??」

 突然聞こえた妹の声。真っ白になっていた視界は急速に元に戻り、静江は声のした方向に振り向いた。

「あ……亜花梨……な、何してるの?」
「え? タツの様子を見に来たんだけど――てか、姉貴こそ何してんの。廊下なんかで股ぐら弄って、グチョグチョ音立てちゃって……そんな趣味あったっけ?」
「あっ……! これは、その……違くて……」

 亜花梨に指摘され、静江は妹にオナニーを見られてしまったと気付いて羞恥で顔を真っ赤に染めた。
 しかし、昂った感情は静江が手を止めることを許さない。それどころか、亜花梨に見られているという状況が、更に欲情を煽ってしまい、静江の指使いは激しくなるばかりだ。

 クチュクチュクチュクチュ……。

「はああ……と、とまんない……亜花梨……み、みないでぇ……」
「と、言われてもなぁ……あーしリビング入りたいし、てか何オカズにしてんの?」

 亜花梨は困ったように言いながら、一向に視界を逸らそうとしない。むしろ何を見て昂奮しているのかと、遠慮の欠片もなく近寄ってくる始末。
 静江の知っている亜花梨は、こんなに性に対しておおっぴらに振る舞う人間ではなかった。なんならこんな状況を見たら、自身と同じく顔を紅潮させ、逃げ出してしまうぐらいの|初心《ウブ》だったはずなのに……止まらない静江の自慰を尻目に、亜花梨は部屋の中を覗き込んだ。

「あー……そういうことね」
「あ、亜花梨……?」

 あまりに拍子抜けする反応に、静江は戸惑いを隠せなかった。てっきり亜花梨は慌てふためき、憤慨して扉を開けてしまうのではないかと思ったからだ。それが、『そういういこと』で終わってしまった。
 亜花梨は視線を逸らすこと無く、母子の情事を覗き続けている。
 静江の中にあった常識が塗り替えられてしまっていくようで、昂奮よりも猜疑心の方が強くなり、自身を慰める手を止めてしまった。

「あ、亜花梨……なんでそんなに冷静でいられるの?」
「冷静って、何が?」
「何が……? 部屋の中を見たでしょ? ママとたっ君がその……シてるじゃないっ。親子でそんなの……駄目でしょ」
「駄目って……シてあげないとタツが爆発しちゃうじゃん」
「ばっ!?――はぁ、私の頭が爆発しそうだよ……」

 妹と全く会話が成立しないせいで、自分の方がおかしいのかと錯覚してきた。

(私の知らないあいだに、一体何が起きてるの……)

 状況が読み込めず、頭の中はパニックで真っ白になっていく。もう訳がわからない。
 上手く思考がまとまらなくなってきた静江は考えるのを止めた。白く染まった頭のままで、亜花梨と一緒にただ呆然と、目の前で繰り広げられている濡れ場を見つめていた。
 二人の乱れた姿を眺めながら、静江は真一文字に口を結ぶ。

(ママ……とても気持ちよさそう)

 恍惚とした表情を見せながら、嬌声を上げる母にシンクロするように頬を染めて目を細める。

(私も……たっ君と……)

 冷めていた昂奮が下腹部を疼かせる。
 すっかり母親に自身の姿を投影してしまった静江は、目の前に広がる官能の世界に傾倒していった。
 龍之助に秘所を貫かれ、子種を子宮に注がれる。それはどんなに幸せなことなのだろう。静江にとって、龍之助の劣情を受け止めることは最上の悦びなのだ。

 なぜなら、静江は龍之助が好きだから。
 姉弟ではなく、異性として――。

 藤宮家の初子として生を受けた静江は、これといった問題もなく、元気に成長していった。
 すくすくと育ち、物心がつき始めた四歳のころ、妹である亜花梨が生まれ。静江は姉として振る舞おうと責任感を覚え始めた。母の負担を減らすため、可愛い妹を守るため、積極的に家の手伝いや亜花梨の世話を買って出た。
 頑張る長女の姿は、親からしたら微笑ましいものだっただろう。だけど静江は、頑張る内に少しずつ……黒い物を溜め始めていたのだ。

 人は優秀であればあるほど、周りからの関心が薄くなる。余計な気遣いを掛けなくても、『この子なら大丈夫だろう』と思われるからだ。
 両親は優しく、無償の愛を注いでくれた。それでも御多分に漏れず……頑張れば頑張るほど、両親の関心は妹に注がれてしまう。
 静江はそれがとても苦痛だった。妹が嫌いという訳ではない、ただ一言、褒めてもらいたかったのだ。
『いつもありがとう』と、優しい言葉をかけてほしかったのだ。

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