なかよし家族
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5,みんなと楽しんでしまった。(4)

「んんっ! んふうぅ……んん……ちゅるる、ぢゅぱ……ちゅうぅぅ」

 射精が落ち着いてきてからも、静江は龍之助を離さなかった。身動きが出来ないほどにきつく締めあげながら、貪欲に接吻を続けた。
 お互いの唾液が混ざり合い、口内は体液でグチョグチョだ。の端から唾液を溢れさせながら、それでも脳を溶かすような舌の感触に、龍之助も止めることが出来なくなっていた。

 ようやく昂奮が落ち着いて来たころ、名残惜しさを感じながら、静江の口内から舌を抜き取る。上下の口を浸食されて液体まみれになりながら、静江は恍惚とした表情のまま、放心していた。

「あう……あっ、あうう……」

 精魂尽き果てたように脱力した静江は、声にならないまま、なんとか呼吸をしている。龍之助は静江を動かし、ベッドにきちんと寝かせてあげてから布団をかけてあげると、彼女は睡魔に誘われるように目蓋を閉じて、寝息を立て始めた。

(ちょっと無茶させすぎちゃったかな……)

 彼女の寝顔を見ながら、反省の気持ちが胸に宿る。汗でひっついた綺麗な黒髪を梳かしてあげると、静江は気持ちよさそうに笑顔を浮かべていた。

 静江を部屋で寝かせた龍之助は、リビングに降りて小休止を取っていた。
 テレビを点けて適当に時間を過ごしていると、空腹を覚え始める。時計を見ると16時を回ったところだった。

「もうこんな時間なのか」

 今日は正午から静江と一緒に部屋にいた。それから部屋で仲良く過ごして、彼女を寝かしつけるまでのあいだ、一度も部屋から出てはいない。
 ちなみに朝食も食べてないので、今日一日何も食べていないことになる。そりゃ腹も減るはずだ。
 そう思うと、相槌を打つように腹が鳴り出す。腹音が聞こえてくれば、空腹感はより一層強く龍之助を襲い始める。

(何かすぐ食べれるもの、あるかな……?)

 ソファから身体を起こし、億劫な気持ちを抱えながら冷蔵庫を物色しようとキッチンに向かうと、玄関の方から鍵を開ける音が聞こえてきた。
 もしかしたら母親かも知れない。それなら何か作って貰おう。そう思って扉を開けようとしている人物を待つことにした。

 玄関扉が開く音がして、忙しない足音と共にリビングの扉が開いた。しかし扉を開けたのは期待した人物ではなく、龍之助と同じく気怠そうな表情をした亜花梨だった。

「ただいま~~、腹減った~~……って、タツじゃん。何してんの?」
「特に何も、お腹空いたから何か食べようかなって」
「おー、奇遇じゃん。あーしも腹減ってさぁ……」

 亜花梨は大げさな動きで腹に手を当てて、空腹感をアピールしている。その様子を見ていたらこっちの空きっ腹まで触発されてしまう。
 投げ捨てるようにソファに荷物を置いた亜花梨は、足早に冷蔵庫に向かっていった。
その様子を後ろから眺めていた龍之助は、自然と脚に視線が向かってしまう。

 なぜなら本日の亜花梨はとても女性的な格好をしていたからだ。
 ミニ丈のフレアスカートを着込んだ亜花梨は脚の殆どが露出しており、ショートソックスと相まって見事な曲線美を描いていた。
 上半身こそゆったりとしたサイズのファージャケットを着込んでいるが、上下とのギャップが可愛らしさと共に、いやらしさも兼ねそろえていて、ついつい目を離せないまま、龍之助は凝視していた。

 普段の亜花梨と言えば、運動に適したアウトドアな格好を好んで着ていた。その頻度は家でも外でも、ズボン以外は持っていないんじゃないかと疑うくらいで、スカートなんて履いてるのを見るのはいつ以来なのか思い出せないほどだった。
 ひらひらとスカートの裾を揺らしながら、亜花梨は冷蔵庫を開けた。

「うーん……? すぐに食えそうなのは全然ないなぁ――」

 よほど腹が減っているのだろうか、亜花梨は冷蔵庫の中身を物色しながら右に左にと顔を向ける。まぁ、空腹なのはこっちも同じなのだが――今はそれどころではない。
 明らかに履き慣れてない攻めた丈のスカートは、亜花梨が冷蔵庫を覗き込むたびにチラチラと白い布地を覗かせていた。

「ん~~しょうがない。何か作るか~」

 もしかして、外でもこうやって見せびらかして帰ってきたのだろうか? 
 普段のボーイッシュな格好でさえ、男の目を引いているというのに、こんな格好で、無防備にスカートをひるがえしながら帰ってきたとしたら、色々な男に卑猥な目で見られてしまったかも知れない。

「タツ、お前何か食べたいもの――――」
「…………」

 そういう目で見られたのなら、間違ってチョロい女と勘違いされて声をかけられるかも知れない。
 そうなってしまったらマゾ気質の次女はまんざらでもない気分であれよあれよのあいだに……!

「……お前、何してんの?」
「……え?」

 頭上から亜花梨の声が聞こえた。不思議に思って見上げてみれば、亜花梨は怪訝な表情でこちらを見下ろしている。
 ふと気が付けば龍之助は屈みこみ、スカートの中に熱視線を注いでいた。白い布地に危機感を募らせているあまり、どうやら意識をやりすぎていたようだ。
 心配している相手に向かって、軽蔑が見える眼差しを向ける姉に、龍之助は立ちあがり言ってやった。

「ちょっと……恥丘の平和を確認しにね」

 バチンッ――――!!

「パァバート!」

 【pervert】

 性的嫌がらせをする人、痴漢、変態、すけべ~etc.

「お前は毎度、ロクでもない奴だな!! 馬鹿ッ! すけべっ!」

 音も無く飛んできたビンタで吹き飛ばされた龍之助に、亜花梨は罵詈雑言を浴びせる。

(いきなり殴るのも中々問題ある行動だと思うけど……)

 そう言ってやりたいのは山々だったが、今回は圧倒的にこちらが悪いので、胸の中に留めることにした。
 叩かれて熱を感じる頬を抑えながら、龍之助は上体を起こす。

「でも急にどうしたのさ。スカートなんて殆ど履いたことないでしょ?」
「え゛っ……」

 龍之助の質問に、亜花梨はあからさまに慌てた表情を見せた。
 この数分間の立ち振る舞いで、昨日今日履き始めたのは目に見えている。ならば、なぜ急に女性らしい恰好をするようになったのか。龍之助はそこの部分が気になっていた。

(もしかして、気になる人でも出来たのだろうか)

 龍之助はふと、このあいだ考えていたことを思い出した。
 亜花梨もいつかは好きな人を見つけて恋仲になる……亜花梨は普段から見ても快活でとても魅力的だ。女性的な姿をしたら、彼女の魅力的な容姿は更に顕著に表れる。声を掛けるのを躊躇っていた連中も、この姿を一目見たら、頑張って関係を持とうとする男も現れるかも知れない。
 ――なんとなく考えていたその瞬間は、今すぐに来ても決しておかしくないのだ。

 まるで身体の中から何かが溢れ出て来そうな不安感を抑え込みながら、亜花梨の返事待つ。言いたくなさそうにしかめっ面を作る亜花梨は、暫く唸ってから、覚悟を決めたように声を上げた。

「……可愛く見られたいなって思ったんだよ」

 頬を染め、目を伏せながら亜花梨は言った。照れ臭そうに振る舞う彼女は、口調こそ男性のようにぶっきらぼうではあるが、自分の発言に照れて短い髪の毛を指で遊ばせる姿は可憐そのもの。龍之助の不安感は、胸中でどんどんと膨らんでいく。

「そ、そうなんだね……」
「……うん、この服装……な、なんか変だったか?」
「いや、大変似合っております」

 落胆した様子で、龍之助は答えた。
 間違いない、亜花梨は自分が休学している間に、大学でなにか恋愛的なイベントがあったのだ。そして女性としての自信を取り戻しつつある彼女は、好意的に捉え……そして――。
 龍之助はこれ以上考えることが出来ずに大きく膝を着いた。

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