6,なかよし家族(2)

「と、いうわけなので、もう通院は結構ですよ。お大事に」

 そこまで言うと、医者はカルテを閉じて、別のファイルを取り出した。
 こちらにはもう関心のない様子でファイルを覗く医者を尻目に、「ありがとうございました」と一言いって、椅子を立ち、項垂れながら診察室を後にする。
 家族と目を合わせることが出来ない。嬉しい報告のはずなのに、龍之助の心には負い目しか入ってこなかった。

(うう……誰も何も言わない……多分軽蔑されてるんだろうなぁ……)

 気付こうと思えば、気付くタイミングはいくつかあった。
 最初に比べて回復が遅くなっていたり、医者の言うように、確かに間隔も長くなっていたと思う。それなのに、気持ち良さにかまけて自身の体調の変化に気付けなかった。
 見えないこととは言え、身体からのサインはあったのだ。龍之助が家族の立場なら、きっと性欲まみれの自分に軽蔑心を抱くだろう。そう思うと、とても目を合わせることが出来ない。

「…………鈍感之助」
「え……?」

 診察室から出ていく際に、茜の声が聞こえた。
 囁くような小さな声に振り返ると、診察室の扉は既に閉じられていた。

「た、ただいま……」

 病院からの帰り道。終始無言のまま、家族と家路に就いた。
 帰宅の挨拶をしながら、重い空気のまま玄関に入る。
 うう……居た堪れない。
 居心地の悪さに龍之助は靴を脱いでから、急いで自室に逃げ込もうとした。

「おい、待てよタツ」

 しかし、亜花梨の一言で龍之助は動きを止める。逃亡は失敗に終わってしまった。

「はい……」

 追い詰められた小動物のように、怯えて縮こまりながら振り返る。
 病院に行く前よりも強くなった不安感と焦燥感で、すり潰されてしまいそうだった。
 亜花梨は優菜に目配せすると、何かを察したかのように頷いて見せた。

「タツ君、お話があるの。私の部屋まで来てくれないかしら?」
「え、ここじゃ駄目なの?」
「うん……だってここじゃあ狭いでしょう? 声も外に漏れちゃうかもだし」

 声が漏れるって……室内なのだから声を抑えれば、外に聞こえる事はないだろう。
 それとも、今から広々とした空間で声を荒げるようなことを今からされるのか。
 家族の思いつめた様子に、龍之助の不安は大きくなるばかりだった。

「ほら、さっさといくぞ」

 促されるまま、龍之助は優菜の私室へと向かって歩く。
 心境は、独房へと搬送されている囚人のようだ。
 後ろを歩く家族の重圧を受けながら、龍之助は覚悟を決める。

 どんなことをされたとしてもしょうがない、自覚がなかったとはいえ、家族の、女性の身体を弄んだのだから。何をされても受け入れよう。誠意を見せるには、それが何より一番の方法だと思った。
 私室の扉まで着いた龍之助は、意を決したように、扉を開ける。

(どんな責め苦を受けても、絶対に弱音は吐かないぞ……!)

 鋼鉄の意思を心に秘めて龍之助は部屋に入った。
 扉が閉まる音が聞こえた瞬間、龍之助の身体が温かいもので包まれる。

「あぁ……タツ君……」
「ちょっとママッ、ずるいっ!」
「わ、私も……抱き着きたい」

 龍之助は揉みくちゃにされながら、何が起きているのかと困惑していた。怒声を上げられ、自分たちの身体を使って欲望を処理していたことに対して、罵声を浴びせられると思っていたのに、実際は想像と違い、まるで自分の物だと主張するように、龍之助を奪い合っていた。
 訳もわからないまま肉の海に溺れていると、抱き着いていた優菜が耳元で囁く。

「お医者さんが言ってたわよね。タツ君の病気、大分前に治ってたかもって」
「う、うん……」
「じゃあ最近までの性欲は、病気で促進されたものではなくてタツ君自身のもの、ってことになるわよね」
「……うん。ごめんなさい」

 申し訳なさそうにしている龍之助に、優菜はきょとんとしている。

「なんで謝るの? むしろ嬉しいくらいよ」
「え……」
「だってそれって、タツ君が自分の意志で私達を抱きたかったってことじゃない。私は始めからタツ君のことが好きで好きでしょうがないし――この娘達もまんざらではないはずよ。ねぇ?」

 優菜が姉二人に振り返ると、二人は恥ずかしそうにしながら、それぞれ明後日の方を向いていた。
 返事がないのは肯定と同義である。つまり優菜の言葉通りなら、二人もこの状況を楽しんでいたということだ。確かに亜花梨と静江は両方ともこちらを好意的な目で見ているのは気付いている。そういう会話もしているし、自分自身、そこまで朴念仁ではない。
 だからこそ、好意を持った相手がその実、欲求を満たしているだけだったと認識した今、二人は怒りを抱えているものだと考えていた。

「それとも、タツ君は私達の相手、嫌なのかしら? もう元気になったらそういうことしたくない?」
「そ、そんなこと……」

 ある訳がない。
 優菜のたわわに実った双丘を背中に押し当てられ、よくわからない甘い香りが鼻孔をくすぐるだけで、発情期に入ったように昂奮を覚えてしまう。
 今だって、周りの様子に期待感が募ってしまい、病気の時と変わらず、下腹部ははちきれんばかりに充血を起こしていた。

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