頭がくらくらする。
呆然としたままの私の瞳には、米田さんが映っていた。
私のファーストキスはこの人にあっけなく奪われてしまった。
しかし喪失感はなく、胸にあるのは心臓を鳴らす昂奮と、僅かに感じる満足感。
もっと、もっとしていたい。
上手く頭が動かないせいで、よく考える事が出来ないけど、とにかく今はさっき感じた安心感をもう一度味わいたかった。
おたがいの舌が絡まっている間、暖かい気持ちがして安心できたのだ。
その気持ちはお父さんが死んでしまってから、久しぶりに感じる安堵の感情だった。
私は口を広げてもう一度キスを要求した。
口を広げて乞う様に舌を伸ばす。舌に触れる吐息はとても熱くて、火傷しそうなくらいだった。
必死に舌を伸ばす私を見て、米田さんは嗤ったような気がした。
「しょうがないな」
そう言ったあと、米田さんの顔が近づいて来た。
やった、また気持ち良くしてくれる。
悦びを感じながら、米田さんが来るのを待った。
目を閉じて待っていると、それ程間を置かずに、生暖かい物が口内に入り込んでくる。
ぬめり気のあるソレは、私の口内で暴れまわり舌先を食べているように蠢動してから、吸盤みたいに吸い付いてくる。
こそばゆいような気持ちいいような、なんともいえない感触を舌から感じて、痺れるような感覚がする。
不意に舌が離れ、米田さんの声が聞こえた。
「これも脱いじゃおうか」
「あ……」
躰に触れられる感触を覚えてゆっくりと目を開けてみると、米田さんはシャツのボタンに手を伸ばしていた。
私は思わず手を伸ばして止めようとしたが、途中でその手を止めた。
既に下半身をまる出しにしていて今更だと思ったし、なによりこの人がしてくる事はとても気持ちがいいのだ。
シャツを脱がし始めた米田さんは、今度は何をする気なんだろうか。
私は高揚感で胸を高まらせて、恥ずかしさよりも期待が勝っていた。
沈黙の中、ボタンを外す布擦れの音が凄く目立つ。
ボタンが外される度、悪い事をしているようなドキドキ感が身体を震わせてしまい、米田さんに心臓の音が聞こえてないかと不安になった。
「よし、脱げた――やっぱり若いから、綺麗な身体をしてるね」
「あ……ありがとう……ございます」
褒められて反射的に返事を返した。
四肢だけ陽に焼けた身体は、白いままの部分と色の違いが少しコンプレックスになっていたのだけど、そう思っている所を綺麗と言われたら、どうしたって嬉しくなってしまう。
徐々に顔の温度が上がるのを感じながら、崩れそうな表情を保つ。
「乳首もガチガチに立ってる」
そう言って、米田さんは指で胸を触る。
乳首が……立つ?
ピンとこないまま考えていると、米田さんは胸に顔を近付けると舌を這わせた。
汗を掻きながら帰った事が頭をよぎり、無性に恥ずかしくなった私は米田さんの頭を離そうと押してみるがびくともしない。
「ん……米田さん、今日は一杯汗かいたから、汚いですよ……」
仄かに刺さる感触に息を漏らしながら、そう伝えると米田さんは離れていく。
「――親子でも感じるポイントは違うのか」
「? ……なんの話です?」
「いや、こっちの話だよ。気にしないで」
そう言ってから、米田さんは再び唇を奪いに来た。
「ん……」
背中にゾクリとした感覚が走り、躰から力が抜けていく感じがする。
キスは気持ちいい。暖かくて心地よくて……。
まるでどこかのスイッチが入ったかのように、私は一瞬でキスの感覚に陶酔し始めた。
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