4.42話

 よくもまぁ、そこまで感情を変えれるものだと、初めての恋心に翻弄される彼女を見て思った。
 その姿を見てふと、俺が学生だった時の記憶が蘇ってくる。

 当時初めて付き合った恋人はとても綺麗で、俺には付き合う事になってもまだ、彼女が高嶺の花に見えてしまい、緊張しっぱなしだった。
 彼女の機嫌を損ねない為に、思いつく限りの方法で気を使っていたのを覚えている。
周りの噂になって、冷やかされて嫌な思いをさせないように秘密にしたりして――。
 今にして思うと、学生時代は俺もまた結花ちゃんのように恋愛感情に翻弄されていたのだなと、思わず笑みがこぼれてしまいそうになった。

 そこで俺は、ハッっとした。

「でも――」

 おもむろに言った言葉に、結花ちゃんは顔を向ける。
 俺は少し考えて、頭の中を整理してから話を続けた。

「人に言うのは、少し待った方がいいんじゃないかな」
「どうしてですか?」
「祝福されるとは限らないからさ、それで否定的な事を言われたら嫌だろう?」
「それは……まぁ。あ、でもお母さんに言うくらいは――」
「それもまだ言わない方がいいと思う。引っ越してきたばかりでバタバタしている所だし、美穂さん――お母さんが落ち着くまで待った方がいいんじゃないかな」

 彼女は訝しい表情をしながら、納得がいかない感じで頭を捻っていた。

「少なくても、今言うってのは俺は嫌だなぁ」

 俺が明確な否定を示すと、結花ちゃんはハッとした表情をしてからかぶりを振った。

「わかりました。言うのはやめておきます」

 そう言って彼女は慌てて会話を止めた。
 理由はなんでもいいのだ。
 彼女にとって今の俺は、機嫌を損ねたらいけない相手になってしまっていた。
 色々悩んでみたが結局の所、適当な理由と面倒臭そうな態度を取れば、彼女は言うとおりにしてくれる。惚れたと思った方が負けなのだ。
 昔の自分と同じ様に、空気を読もうと慌てる彼女を見て痛感した。

 余計な事を言わないように押し黙った彼女は、さっきと違いとても扱いやすい少女に見えた。
こうして大人しい彼女を見ていると、なんでも言う事を聞いてくれそうに見えてくる。

「じゃあさ、結花ちゃん――」

 おもむろに話し始める俺に、結花ちゃんは顔を向けた。
 折角だからこの状況を利用して、美穂さんにプレゼントでも用意しよう。そう思って結花ちゃんに身体を寄せた。

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