「買い物に付き合ってくれてありがとうございます」
「いえいえ、これくらい何てことないですよ」
両手に持った袋を持ち上げて見せる。
休日の昼下がり、なんだか無性に缶コーヒーが飲みたくなった俺は財布を持って外に出ると、買い物に行こうとしている美穂さんが目に入った。
特に用事も無かった俺は気の向くまま、彼女の買い物に付き合う事にした。
「しかし、買いましたね」
俺の両手には日用品が入った買い物袋を握りこんでいる。
それだけではなく、連れ合うように横を歩く美穂さんの両手にも食料品が詰まった袋がぶら下がっている。
合計四袋。とても美穂さん一人で持ち歩ける量ではなかった。
「米田さんが付いてきてくれたので、少し買い込んじゃいました」
そういって美穂さんは少しだけ申し訳なさそうに笑顔を見せる。
なるほど。しっかり使われた訳か。
まんざらでもない気分になりながら、結花ちゃんを思わせる彼女の笑顔を見つめる。
美穂さんの笑顔には最初に感じた悲壮感のようなものは無くなっていて、柔らかい雰囲気を感じさせる彼女の容姿は見る度に綺麗になっていくようで、横を歩いていると美人と連れ合う優越感を与えてくれる。
「役に立ったようでなによりです」
そう言うと、美穂さんは笑顔を作り、「ありがとうございます」と弾んだ声を返す。
――このあざとさは天然なのだろうか。声と共に大きな胸を弾ませながら、小動物のように庇護欲を煽る彼女は男性が理想とする女性像の、一つの完成形に見えた。
きっと亡くなった夫も彼女のそういう所にやられたのだろう。
彼女の振る舞いに表情を緩ませる男の姿が容易に想像出来てしまい、結婚をした後、旦那が美穂さんの立ち振る舞いにヒヤヒヤしているところまで容易に想像できる。
「買い物に行くときに声を掛けてくれたら、いつでも付き合いますよ」
「本当ですかっ」
相槌の代わりに頷いてみせると、美穂さんの顔が子供のように明るくなった。
「本当に助かります。最近仕事が忙しくて買い物に行けてなかったから」
「へぇ。繁忙期なんですか?」
「うーん……そういう感じではないんですけど。なんというか、私だけ残業する事が多くて」
「……? 美穂さんだけ?」
なんだかよくわからないまま彼女の言葉に首を傾げた。
残業する程に仕事があるのに残るのは美穂さんだけとはおかしな話だ。特別彼女が有能と言う事ならまぁ、わからないでもないが――申し訳ないがその可能性はないだろう。
自分だけ残っている事に大した疑問を持っていない彼女を見て思う。
「それじゃあ一人で作業しているんですか?」
俺の記憶が確かなら、美穂さんは製造業に努めていたはずだ。パートタイムと言っていたし、恐らく工員だろう。となれば、ライン作業が想像できるが一人で作業するのは却って効率が悪い気がする。
考えれば考えるほど、ちぐはぐな気がして頭が混乱してきた。
「あ、いえ。リーダーさんと一緒に作業してますよ」
俺の質問を美穂さんが返す。
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