4.64話

「リーダー? 工場長的な人ですか?」
「正社員の方で、パートで働いている人に指示をしている人です」
「あー、成る程」

 詰まる所中間管理職か。そしてその上司は美穂さんだけを残して作業していると。

「ちなみにその人って女の人ですか?」
「男性ですよ?」

 ですよね。そうだと思いました。
 俺は心の中で相槌を打った。真面目に考えていたのが馬鹿らしい。

 状況から察するに、上司は美穂さんに魅了されているだけだろう。適当に理由をつけて自分の仕事に付き合わせているのだ。そう考えると途端に合点がいく。

「ちなみに、その男の人って距離感近くないですか?」
「え……米田さん、よくわかりましたね」

 わからいでか! 驚く彼女を尻目に、心の中で大声でツッコんだ。
 この場合、わからない彼女の方がおかしいと思う。俺に嵌められてしまった後だというのに……人を疑うという事が出来ないのだろうかこの人は。
 開いた口が塞がらない俺の事など気にもせず、美穂さんは会話を続ける。

「色々親切にしてくれるのは嬉しいんですけど、プライベートの事とかをよく聞かれたり……あとは単純に距離が近いんですよね。不思議に思わないのかしら」
「ええ、本当に」
「米田さんもそう思いますか」
「思いますね」

 恐ろしく噛み合っていないであろう相槌を打ちながら、会話を続けた。
 聞いていると、どうやらまだまだ男側の一方的なものであり、特別仲のいい状態にはなっていないようだ。

 が、この鈍さならそういう関係にもつれ込まれるのは時間の問題だろう。
 仮にそうなったとしても、構わず美穂さんで遊ばせてもらうつもりなので俺としては全く問題はない。むしろ面倒になったら相手に押し付ける事が出来るのだから悪い話でもないのかも知れない。

「米田さん?」
「……ちょっと寄り道しましょうか」
「え、あっ――」

 知れないのだが……なんだかモヤモヤする。

 独り言のように呟いた俺は、美穂さんの返事を聞かないままに近くの公園に入った。
 その様子に少しだけ戸惑っていた美穂さんは、置いて行かれないよう、俺の後をついて来ている。

 公園に入るとそれなりに大きな空間が広がっていた。まだ明るいのに人はまばらで、穏やかな空気を感じる。犬を連れて歩く老人とすれ違いながら、目に入った公衆トイレまで歩くと振り返って美穂さんを見た。

「米田さん、どうしたんですか?」

 小走りで追いかけて来た美穂さんは憂いを含んだ表情をしている。
 普段なら庇護欲をそそるのだろうその表情も、今の俺にはムカムカと胸やけのように体に刺さるようだった。

「急に催してしまって……少しトイレに行ってもいいですか?」
「え、ええ。大丈夫ですけど……ひゃっ」

 美穂さんの了解を得た俺は、片手に買い物袋をまとめてからトイレの中に美穂さんを引っ張りこんだ。

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